日々、都内で数億ベクレルの放射性物質が『消失』している
都内の各所で、それこそ原発並みの放射能が日々排出されているというのをご存知でしょうか。
都内の放射性物質の集積地点、下水道施設からの外部への流出による“二次汚染”が懸念されています。
神戸大学大学院教授の山内知也氏は、『失われた放射性物質』について、次のことを指摘しています。
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「東京都から提出された1日当たりの汚泥の量、焼却灰の量、そして放射能の量、こういったものを掛け合わせていくと、1日当たり、東京都全体の下水汚泥の総放射能量、これは約21億5000万ベクレルになります。焼却灰の放射能総量、これは17億6000万ベクレルなんですね」
「とてつもない量の放射能、放射性物質を扱っているわけですが、ポイントは、放射性物質は焼却してもどこかに消えることはないということなのです。その姿が気体になったり、固体になったりはするものの、トータルの放射能量、これが減ることはありません。つまり、この汚泥に存在した21億5000万ベクレル、焼却灰となって捕集した17億6000万ベクレル、この数字を引いた1日3億9000万ベクレル、これが行方不明となっているのです。どこに行っているかわからない。都は、この3億9000万ベクレルがどこに行ったのか、これを合理的に説明することができるのでしょうか」
「大きな可能性としては、これは2つあります。排ガスとなって大気に排出されている、もう1つは、水処理によって溶けている、そのどちらかです」
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仮に、この行方不明の1日3億9000万ベクレルが施設外、大気中に出ているとします。
その場合の大気中への1年間の放出量は1423億5000万ベクレルにおよぶといいます。
都の松田下水道局長は、下水道施設周辺への二次汚染の可能性について次のように反論しています。
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「下水汚泥の焼却によって生じる排ガスやその影響についてでございますが、排ガスは煙突から排出をされる前に、細かいちりなどを除去できる高性能フィルターなどに通しまして、その後、さらにアルカリ性の水によって洗うことで、固形物を99.9%以上回収し、焼却灰が施設外へ飛散することのないよう適切に管理をしております。水で洗った後の排ガスの成分を専門家に委託して測定をした結果、放射性物質は検出されておりません。このため、周辺環境への影響はないと考えております」
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ところが、この報告書を何人かの専門家にみてもらったところ、適切な測定ではないと口をそろえているといいます。
名古屋大学名誉教授の古川路明氏は「吸引空気量が4m3くらいで、測定が1000秒(約17分)ですか。吸引量も測定時間も短すぎます。この測り方ならどこでも検出限界以下」と驚いたように話しています。
名古屋大学名誉教授の古川路明氏や、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏は、測定の不備を指摘しています。
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「排ガスは量がものすごい多いわけですが、捕集用のフィルターに吸着する粉じんはきわめて微量で目方はほとんどありません。そういう微量なものですから採取も2~3日間ずっと吸引したり、測定も一晩くらいかけることも珍しくありません。少なくとも100m3、できれば1000m3くらいは(吸引量が)欲しい。ですからケタがぜんぜん違います。それにこんなに(ゲルマニウム半導体検出器で)短く測るのはよっぽど(放射線量が)高いものを測るときくらい。異例ですよ。恣意的とまではいわないですが、いい加減にやっているのは間違いない」
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『採取する量が少なすぎ、計測時間も短すぎる。となれば、まともな測定結果が出るわけない。』
このように指摘されるほどずさんな測定だったというのが、専門家の見解となっています。
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原子力安全委員会が1977年に決定し、2001年に改訂した「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」が標準的な測定方法を示している。そこには「測定下限濃度を満たすための代表的な測定条件」が掲げられており、ヨウ素131やセシウム134、同137については、「50L/分で1週間採取」とされ、ゲルマニウム半導体検出器の計測時間は「4000秒」とされる。
東京都の測定法と比較すると、都の2倍以上の吸引量で、46倍となる丸1週間の採取をして、ようやく4倍の測定時間が許されることになる。ちなみにこの指針で求められる検出限界濃度は都の測定の100分の1近い。都はこの指針の存在についても知っていた。にもかかわらず、あえて指針よりもはるかに短い時間と少ない量のサンプリングとし、計測時間もずっと短くして測定した。これはもはや放射性物質が検出されないような測定方法を最初から選択した“放射能隠し”ではないか。
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さらに、東京都の設備はそもそも放射性廃棄物を扱うようになっていないため、原発のフィルターより簡易なものとなっています。
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東京都の下水汚泥焼却炉の排ガス処理設備は原子力施設に設置された焼却炉に比べて簡易なのだ。都によれば下水汚泥焼却施設の排ガス処理設備は、セラミックフィルター、バグフィルター、電気集じん機のいずれかの「高性能フィルター」に、アルカリ水を噴霧する湿式スクラバーという2段構成となっている。
だが、これが原発にある放射性廃棄物の焼却炉の場合、前段にセラミックフィルターなどを採用するだけでなく、後段に「高性能フィルター」として、さらに微細な粒子も捕捉できる、ガラス繊維のろ紙を重ねたヘパフィルターを設置するのが当たり前である。柏崎刈羽原発のように前段のセラミックフィルターを二重にした上でヘパフィルターを設置するという3段構えも珍しくない。つまり、東京都のいう「高性能フィルター」を二重にし、さらに高性能なフィルターまで配置していることになる。
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東京都の説明では、固形物は99.9%以上回収され、焼却灰が施設外へ飛散することはなく、放射性物質は検出されていないことになっています。
しかし、原発に匹敵するだけの放射性物質を日々排出しながら、十分ではない設備と測定により『不検出』と銘打たれたものであるなら、話は違ってきます。
その結果が、日々数億ベクレルに達すると言われる『放射性物質の消失』です。
それは、おそらくは私たちの生活サイクルに取り込まれ、生活域の汚染と被曝へと繋がっていきます。
どうなる放射能汚染物の処理【4】“原発並み”の放射能抱える東京の下水道施設 より
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110729/107086/