たばこに含まれている放射能はどれくらいか?
『たばこにはポロニウム210という放射性物質が含まれており、その事実をたばこ会社は把握しつつも、40年にわたって隠蔽されていた』そんなニュースが紹介されていました。
たばこ会社が絶対客に知られたくない真実… 煙草には放射性物質が入っている
http://www.gizmodo.jp/2011/10/the-secret-tobacco-companies-dont-want-you-to-know-theres-radiation-inside-cigarettes.html
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タバコの放射性物質はポロニウムー210。「アルファ粒子と呼ばれる有害な粒子を放出する」放射性物質です。
この粒子は吸い込むと、タバコから検出される他の発がん性物質と相まって喫煙者の肺に倍のダメージを与える(がんを誘発する)のです。
ABCニュースが報じていたのですが、UCLAの研究員らの調べで、タバコ各社がタバコの中に放射性物質があることを1959年の段階で既に知っていたという事実が明らかになりました(日経サイエンスで翻訳紹介されたスタンフォード院生の2009年の論文の方が発見は先ですが、今回UCLAで未検分の文書27件を調べた結果、隠蔽の事実が具体的に裏付けられた)。
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ABC Newsの元記事はこちら
Tobacco Companies Knew of Radiation in Cigarettes, Covered It Up
http://abcnews.go.com/Health/tobacco-companies-hid-evidence-radiation-cigarettes-decades/story?id=14635963
たばこにポロニウム210が含まれているとして、それはどれだけの量なのでしょうか?
関連する情報を集めてみました。
まずは2006年のNYTの記事です。
Puffing On Polonium
http://select.nytimes.com/gst/abstract.html?res=F10A13FD355A0C728CDDAB0994DE404482
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If .04 picocuries of polonium are inhaled with every cigarette, about a quarter of a curie of one of the world’s most radioactive poisons is inhaled along with the tar, nicotine and cyanide of all the world’s cigarettes smoked each year. Pack-and-a-half smokers are dosed to the tune of about 300 chest X-rays.
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たばこ1本に0.04ピコキュリーのポロニウムが含まれていると仮定した場合、1日1箱半の喫煙が300回分の胸部X線の被曝をもたらす…という内容です。
この内容が本当なら、喫煙と喫煙がもたらすがんには明らかな相関があるはずです。
しかし、喫煙者は減少しているにもかかわらずがんは増加しているという事実があります。
さらにネットを検索していくと、過去にこの事象を調査し、まとめているエントリがありました。
タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝するか(解決編)
http://d.hatena.ne.jp/ayanami/20070128
はてなおそるべし・・・
NYTの記事はスタンフォード大学のRobert N. Proctorが記載しているのですが、エントリをまとめたayanamiさんは記事に疑問を持ち、教授の計算間違いを指摘していました。
それによると、1年間毎日たばこを吸った場合の被曝量は0.036mSv
9.77×10^-5×365=3.57×10^-2=0.036(mSv)
胸部X線撮影1回分の被曝量は0.1~0.6mSvとのことなので、2年半毎日タバコ吸わないと被曝量はレントゲン1回分に達しないということになります。
さらにその後、ayanami氏はハンガリー・Pannonia大学や、ギリシャ・Aristotle大学、ポーランド・Gdansk大学などの各教授に問い合わせ、それぞれでたばこの喫煙による被曝量が1mSvに達することはないことを確認しています。
さらに、放射線医学総合研究所の論文『喫煙者の実効線量評価―タバコに含まれる自然起源放射性核種―』によると、たばこを1年間吸った場合の被曝量は、0.19 mSvほどであるといいます。
ayanami氏のまとめによると、スタンフォード大学のProctor先生の主張、
『タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝する』のデータの出所は、
『Thomas H. Winters and Joseph R. Difranza, “Letter to the Editor,” New Engl. J.Med 1982,306:364-365』であるとのことです。
この論文の中で、『喫煙による被曝量は年間8000ミリレム(≒8ミリシーベルト)である』という記述があるものの、これは実際の測定に基づいたものではなく、1965年の生体組織検査報告からの推定であるとのこと。
たばこには確かに放射性物質が含まれていますが、その量は毎日1箱の喫煙によっても1年間で0.19mSv程度。
それにしても、スタンフォード大学の教授ともあろう方が、NYT誌での発表で、なぜこのような不確定な根拠からの主張を行ったのでしょうか?
私たちで誤りが主張できるレベルでの計算間違いを起こしていることも気にかかります。
もしかしたら、『放射性物質が引き起こすがんの影響』をたばこに転嫁するために、たばこを『がんを引き起こす最も大きな要因』とするために、当時のNYT誌はこんな記事を書いたのかもしれません。
ABC News がこの時期にこのニュースを載せたのは、あるいは原子力産業によって、これから世界的に引き起こされるがんの大量発生の影響を、たばこに責任転嫁したいがために…と考えてしまうのは邪推でしょうか。